ササヤカな糸

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探しものは何ですか。 聞けずじまいの名前を 写真の中も、記憶の中も 探したけれど見つからないのに。 「ノリちゃん、いらっしゃい」 大阪に住む祖母が戸建てを売って マンションに引っ越すことになり 荷造りの手伝いにやって来た。 俺の貴重な中二の終わりの春休み。 「もう荷物ほとんど片付いてるやん」 手伝うことなど特になさそうだった。 「ちゃうねん。ノリちゃんの荷物を引き取って欲しいと思ってやな。いらんもんないか見て欲しいねん」 俺が小さい頃 母が入院していた時があって 祖母に預けられていた。 その後も祖母の家には しょっちゅう遊びに来ていたから 俺の着替えやゲームは置いたままだ。 祖母が和室に置いてある段ボールを開けると 母と幼い弟が中を覗き込む。 ミニカーや電車、おもちゃの他に つみきやパズル、よくある英語教材。 祖母は母よりも教育熱心なタイプで まだロクに日本語を喋れなかった俺に ひらがなだけでなく英語も教えた。 「今の隆人(たかと)くらいの時に紀樹(のりき)が英語話したからお母さんビックリやったわ(笑)」 気に入って観てた英語のDVDの台詞を 丸暗記していたらしく 退院した母の前で披露して驚かせた。 全然覚えてへんけどな。 「あとな、お姫さま見つけたって言われたんもビックリしたんやで(笑)」 母が俺の顔を見てゲラゲラ笑っている。 「はあ?」 「あんた覚えてへんの?(笑)」 「そんなん言うわけないやろ」 「ノリちゃんお姫さまと結婚しゅる~って言うてたやないの」 「誰が言うねん(笑)」 ふと幼少時の映像が脳裏に浮かぶ。 クローバー畑の中。 お城の前でシロツメクサの指輪を貰った。 儚いプロポーズ。 あの子は誰やろ? 「でも、俺誰かと遊んどったやんな?」 首を捻っていると祖母がニコニコしながら 段ボールからゴツいアルバムを取り出した。 「ノリちゃんのお姫さまはこの子やで」 セピア色の写真の中にいる幼い少年、 のような風貌をした可愛い女の子。 ふわっとしたショートヘアに 大きい黒目がちな瞳。 真剣な顔でクローバーやシロツメクサを 集めては花冠を黙々と作っていた。 あーそーぼ、と声を掛けたら いーいーよ、と笑顔で答えた。 その日から毎日のように隣にいて 一緒におままごとをしたり 結婚の真似事をしたりしていた。 「この子の名前何やったっけ?」 俺の問い掛けに祖母は首をかしげた。
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