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「もし、そこの方」
Xは声をかけられて立ち止まる。声をかけてきたのは、二足で立ち、二本の腕を持つ人、つまり私たち「人間」と変わらない姿かたちをした人だった。辺りを行き交う人――それは本当に様々な姿かたちをしている――の中で、人間を見つけるのはそれが初めてだった。
Xはぱちりと一つゆっくり瞬きして、その人を見やる。
「私ですか」
「そう、あなたですよ。よかった、言葉も通じるみたいですね」
この辺りでは言葉もほとんど通じなくて、と話しかけてきたその人間の男性は言った。確かに、Xの聴覚で捉えた道行く人々の声を拾い上げてみても、私たちの知る言語で喋っている者はなかった。
Xは改めてその人と向き合う。Xの視覚で見る限り、三十代から四十代くらいに見える、黒髪の男性。長く伸ばした髪を後ろでまとめており、涼やかな目元でこちらを見つめていた。
「一つお聞きしたいのですが、私やあなたと同じような姿の、少女を見かけませんでしたか」
「少女……、ですか?」
「ええ。帽子を被っていて、白い服を着ている、十歳くらいの少女です」
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