プロローグ

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 どっちが上で、どっちが下か。  人生の上下関係に、俺は敏感だと思う。  人気のあるやつは上の階級で、友達のいないやつは下の階級だ。それでいうと、俺なんかは中の下の下という感じだろうか。  人付き合いが苦手で、挨拶をするのさえ苦痛で、愛想笑いができない。営業職には絶対に向いていないと思ったから、事務職を希望して入社したのに、人手が足りないという理由でこの春から営業に回されてしまった。おかげで毎日かきたくもない汗をかき、ノルマや成績に振り回されて神経までやられかけている。  俺なんて、会社が沈まないために動いているただの歯車でしかないのに。    それに比べて、目の前の少年はなんて明るい前途をその瞳に宿しているのだろうか。確実に俺より上の階級に生きているに違いない。きっとこの先も、ずっと。  もう彼とは決して交わることはないだろうと心の中で線を引き、俺は信号待ちの通行人に戻ろうとした。  その時、彼がボソッと呟いた。 「あ、そうか。覚えているわけないですよね。……」
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