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それからの一週間、俺は奏多に言われた通りにして災難を避け続けた。
失敗しそうだった商談も、事前に相手の求めていることを奏多から聞いていたので準備することができ、以前と比べてはるかにプレゼンが楽になった。
立て続けに仕事で成功していると、自信が顔にも表れるらしい。いい顔をしていると褒められ、さらに次の仕事が舞い込んできた。
「松田さん、なんだか人が変わったみたいね」
仕事帰りに思い切ってえみを飲みに誘うと、彼女は嬉しそうに承諾した。
奏多の手を借りずに成功したのは、これが初めてだ。
彼女は驚くほど俺の活躍を見てくれていて、すごいと褒めてくれた。
「どうしてそんなに自信をつけられたの?」
奏多のおかげだということを言うのはカッコ悪かったから黙っていようかと最初は思っていた。だが、そのうち騙しているようで心苦しくなってしまった。
どうせ信じない。俺はそう思って、えみに全てを話した。
「じゃあ、その未来からきた少年が松田さんに力を貸してくれているの?」
「うん」
「まさか。信じられない。松田さんは謙虚ね。自分の実力なのに、照れくさいから人のおかげだって言っているだけなんでしょう?」
「そうだったらいいんだけどね。残念ながら俺はそんなにいい人でもないんだよ」
えみは酒のせいかほのかに赤くなった頬を緩めた。
「たとえ誰かが手を貸していたんだとしても、松田さんが真面目だったから取れた契約もあったはずよ。それに、自分の実力だって天狗にならないところが松田さんのいいところだと思う。ちょっと地味だけどね」
えみのおかげで、俺は自分のことが少し好きになれた。
「その少年もきっと松田さんのことが好きだから手を貸してくれたのよね」
「さあ……? 感謝しているとは言っていたけどね。俺は何故感謝されているのか分からないんだ。それに……」
俺は奏多と会った日の最後に言われた言葉が気になっていた。
「十日後の八月七日の午後二時十八分に、僕が今から言う場所に必ず来て下さい。そこは運命の大事な分岐点なんです。ここが変わると未来が変わってしまう。何があってもその日のその時間にあなたはそこにいなくてはいけません」
お願いします、と俺を見据えた奏多少年の目は、宝石に泥を塗ったような鈍い光を放っていた。
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