八月七日

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八月七日

 運命の日、俺は奏多が言っていた通りの時間、指定された場所にやってきた。  アスファルトから湯気が見えるような暑い日だった。  そこは駅のそばの側道で、道路の右側に並ぶフェンスの向こうには何本もの線路が走っていた。大きな貨物列車が二両手前の線路に停止している。道路の左側は住宅街だ。年季の入った二階建ての木造アパートや、石ブロックに囲われた民家が続く。    ここに来いと指定された理由は分からないが、俺がこの日この道を歩かなくてはいけなかった理由は分かる。  駅前の雑居ビル内にある取引先の印刷会社からクレームが入ってしまい、その詫びに行けと告げられたのだ。俺のミスではなかったが仕方がない。印刷会社の社長が好む和菓子屋の菓子折りを持って急いで向かうのに、信号の少ないこの側道を使うのが最も直線的で速く着く。  未来の俺もおそらく同じことを考えて、この日この道を辿ったのだ。  そう思うとなんだか背筋がゾッとした。  これからここで何が起きるのだろうか。  腕時計で確認すると、時刻は二時十五分を過ぎたところだった。  あと三分だ。
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