第一章 商品になるために

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第一章 商品になるために

 この街は、夜こそ目覚めの顔になる。  きらびやかな灯火に、ネオン。  行き交う大勢の、人、人、人。  不夜城とも呼ばれるこの歓楽街の中、ひときわ輝くビルの一室に、葛城 了(かつらぎ りょう)は居た。 『ボーイズクラブ・コーラル』だ。  ハンサムに、イケメンに、ナイスガイ。  あらゆる種類の見目麗しい男たちが、客をもてなしている。  シャンパンタワーが煌めき、店内は最高に盛り上がっているところだ。  だが了は、そんな喧騒から遠い席に一人で掛けていた。  濡れたような黒髪は、少しウェーブのかかった短めのツーブロック。  彫りの深い顔立ちは、ギリシャ彫刻のような趣がある。  身なりは、黒のスーツ。  シャツとネクタイにわずかな色味を添えることで、なんとか喪服ではないと判る。  ブランデーを一杯干したところで、彼の傍へ中年男性が現れた。 「お待たせしました、オーナー」 「コーラルの責任者は、君だ。松下(まつした)」  御冗談を、と松下は密かに笑う。 「このビル全てのオーナーは、あなた様ですから」  ご機嫌を取るような松下の物言いに、わずかに気分を害した了は、すぐに要件に入った。 「それで? うちの『商品』になりたいと言う子は?」  了はホール内の男たちを見渡したが、松下はここにはいない、と答えた。 「すでに、面接室へ通してあります」 「手際のよいことだ」  松下は、褒められたのだと受け取って、愛想笑いをした。
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