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「次行ってくれ、宇宙プランはいい」
「かしこまりました」
スタッフの操作とともに画面が切り替わる。次に出たのはメルヘンチックな世界だ。フリルが多く全体的にピンクの世界である。動物たちは服を着ておしゃべりをしている。まるで鏡の国のアリスのような世界に男性はへえ、と感心したように見てから女性に声をかけた。
「どう?」
「うん、可愛い。可愛いけど、ちょっと私のキャラじゃないかなあ」
あはは、と苦笑する女性はどちらかと言うと世界遺産などのプランに心惹かれるタイプだ。可愛い物よりは厳かで美しい物が好き。その言葉を聞いたスタッフは自信満々に説明を始める。
「ご安心ください。このプランはただのメルヘンではございません」
「……ただの?」
なんか今日本語が変じゃなかったか、と思ったがあっという間にメルヘンな雰囲気がなんだか殺伐とした雰囲気となる。BGMがとてつもなく不穏だ。花や小鳥、ウサギなどがしゃべっている雰囲気というのが、楽しそうなのではなくこちらをちらちらと見ながら内緒話をしていて睨まれているように見えなくもない。
「こちらはおとぎの国という設定ですが、この中に人狼が混ざっているという物語になっています」
「何で混ぜた」
思わず二人同時に突っ込んでいた。人狼、人狼ゲームの事を言っているのだろう。数名で行うテーブルトークゲーム。人を食う「人狼」が紛れ混んでいるので、話をし推理しながら怪しいやつに目星をつけ処刑する。処刑が合っていれば人狼以外の勝ちだが、間違っていたら関係ない者を殺しただけでなく、人の数が減れば最終的に人が負けてしまうというものだ。
「本来は楽しいゲームですが、臨場感を出すためにサスペンスを織り交ぜ人狼もお客様の中から三分の一を占める予定です」
難易度高くない、それ。喉まで出かかったがスタッフが目を輝かせてノリノリでしゃべっているので何だか声に出すのをためらった。
「ちなみに処刑を誤った場合はこちらとなります」
タブレットを操作すると、人影があらわれ影絵が始まった。一人が取り押さえられ、必死に首を振って俺じゃないと叫ぶが周囲は聞く耳持たない。無理やり十字架にしばりつけられ、荒野に晒されるとメルヘンだった鳥や兎たちが一斉に飛び掛かる。ぎゃあああ、と悲鳴が上がってしばりつけられた人物は動物たちに群がれ……おそらく食われてるんだろうな、という感じだ。
「ここは鳥葬という案とメルヘン動物たちによる食事と銃殺という案がでましたが、せっかくメルヘンな世界なのでガヤに手伝ってもらうということに」
「なんつう手伝わせ方してんだ!」
「あ、見事人狼の長を吊るともっとすごい演出が」
「いらん! 早く消してくれ!」
え~、と言った様子でスタッフは口をとがらせて映像を切った。何でそんなに残念そうなんだと聞いてみたい気がするが、なんか怖い答えが返ってきそうなのでやめた。
「どの辺が結婚式にふさわしい演出なの」
引きつった顔の女性からそう聞かれると、スタッフは笑顔で答える。
「疑心暗鬼にならず相手を信頼して手と手を取り合って生きていけば、こんな目に合わずに済みますよという教訓を」
「どこの世界の教訓だよ」
「では次のプランに参りますね」
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