3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねぇ、覚えてる?」
目の前にいる可愛い少女が顔を赤らめながら、
「私とエッチしたこと……」
と僕の耳元でこっそり囁いた。
「でも、お兄ちゃんって簡単に記憶を失ってしまうから、私とそういう事をしたこともすっかり忘れちゃうんだよね。あーあ、残念だな。もし覚えていたら、あの時の続きをしようかなって思ってたのに……」
少女は僕の反応をチラチラ見ながらクスクス笑っている。
「ふふっ……冗談だよ。私とお兄ちゃんがそんな関係になることなんて無いよね」
少女は笑顔のまま、僕の周りをくるりと笑って、僕の脇腹をツンツン突いた。
「ふふっ、ふふふ……お兄ちゃんの反応って、本当に面白いな。折角だし、このまま、本当に……」
少女は上目遣いでこちらを見つめる。少女の背丈は僕より頭1つ分小さく、僕の視点からは角度的に少女の胸が見えそうになって……咄嗟に目を逸らすと、少女はまたクスクス笑った。
「お兄ちゃんって本当にエッチだね。私のぺちゃんこなちっちゃい胸でも興味を唆られるの?」
少女はその年齢に似合わぬ妖艶な笑みをし、身を屈めた。すると少女の着ている清楚なワンピースの胸元に少しだけ隙間が開き、中のブラジャーがチラリと見え、その膨らみも見えそうになって……少女はそうして自分の胸元をこちらに見せ付け、僕の反応を窺っているのだ。
「お兄ちゃん、私のちっちゃい胸でも、気になるのかな?」
「い、いや、そんな事は……」
「そうだよね。お兄ちゃん真面目だから、私がこうやって露骨に挑発しているのに全然私に興味を抱かないんだよね……いつになったら私の気持ちに気付いてくれるのかな? それとも、気付いているのに気付かない振りをしているのかな? それは……私がお兄ちゃんの妹だから?」
少女はニヤリと笑った。
僕の胸がトクンと鳴り、身体がよろめいた。
「そりゃ、妹にはそう簡単には手を出せないもんね。手を出したら大変な事になっちゃうかもしれないわけだし。でも、本当は私に興味を持っているんでしょ? 手を出してみたいと思ってるんでしょ? 私、知ってるんだよ?」
少女は焦る僕の反応を見て微笑んだ。
「嘘だよ。全部嘘だから、安心してね? 帰ろっ、お兄ちゃん」
少女はくるりと向きを変えてこちらに背中を見せ、そのまま家に向かって歩き出した。
「待って、美夏……」
僕の声を聞いて、美夏は振り向いた。でも俯いて、僕の顔を直接見ようとしない。美夏の瞳はうっすら潤んでいる……
「行くよ、お兄ちゃん。もうっ、本当、お兄ちゃんって遅いんだから……」
そう言うと美夏はまた家に向かって歩き出した。
僕は慌てて美夏の後を追った。
と、美夏は急にくるりとこちらを向いた。
美夏は潤んだ瞳のまま、僕を見つめて言った。
「もし……今私が言ったことの全部が本当にあった事だとしたらどうする? お兄ちゃんは記憶を失う病気に罹ってしまって、過去のことを忘れてしまって、私としたこともすっかり忘れてしまって、単に妹が兄を揶揄っているだけだと思い込んでいて、でも本当は……」
そこまで言うと美夏はクスクス笑った。
「冗談、冗談。嘘だから、気にしないで……」
美夏は笑っていた。でもその笑顔はなんだか僕には少し寂しげに思えた。
「帰ろっか……」
美夏は家に向かって歩き出した。その寂しげな背中を追うように、僕も家路に着いた。
最初のコメントを投稿しよう!