小銭入れ

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 信号のある横断歩道を渡り、エスカレーターで三階へ。連絡通路を百メートルぐらい歩いた。  矢萩はやや緊張した様子で鉄道警察隊に入った。ガランとしており、人の姿はなかった。  受付カウンターの前で、「すいません」と声をかけるとパーティションの奥から隊員が現れた。矢萩は事情を話した。隊員は、こちらには届いていないと回答した。  矢萩は、そうですか、と言うと失望を露にそこを出た。ここじゃなくて、交番に届けたのかな? 交番は一階にあるけれど、……。  面倒臭くなり、交番に寄らず入谷改札を通過した。どうせ必要のないカードと二千円の現金だから、なくてもいいや。  もう小銭入れのことは考えないようにした。  翌日、早番の松岡さんに鉄道警察隊に届いていなかったと知らせた。松岡さんは、残念そうだった。  午後になって交替した竹部さんにも同じ説明をした。彼は、そうですか、と応えやはり残念そうだった。
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