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労働者階級が住む居住区域は、まるで迷路だ。
木造の建物が無作為に建てられているせいで、袋小路が多い。道は曲がりくねって、どこにつながるか予測不能。「急いでいるなら、道より屋根を歩け」という、アランドルの古いことわざがあるほど。
まさに迷路だ。
道に置かれた酒樽に、吊るされた洗濯ひも。
障害物を避け、くぐり、飛び越えながら、舗装されていない道をひたすら走る。うさぎのごとく軽やかに駆けていた僕も、時間が経つにつれ、疲れで足が重くなってきた。
(それなら……っ!)
追手をまこうとして急に右折し、建物と建物のあいだに入ったら、大きな木造の壁が道をふさいでいた。
しまった。行き止まりだ。
「ここまでだぜ、嬢ちゃん」
「さあ、おれたちと一緒に来てもらおうか」
「楽しいことをしようぜ」
男たちがにやけ顔で近づいてくる。猥雑な視線で全身をなめまわされ、背筋がぞっと寒くなった。
(もうだめだ、逃げられない!)
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