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1 初夏のファンファーレ
「ミア、ミア、どこにいるの?」
お母様がお呼びになっている。返事をする気分にはなれず、僕はお屋敷の中庭にある、私的庭園に逃げ込んだ。
初夏は薔薇の季節だ。
大理石の噴水を中心にして、たくさんの薔薇が植えられている。
ドレスのように花びらが広がる、青紫色のガリカローズ。たくさんの花びらが重なり合った、褐色のケンティフォリア・ローズ。色とりどりの薔薇たちの足元には、青いデルフィニウムが咲いている。
お屋敷の外壁には、アルバローズが灰緑色の葉を広げ、果敢に枝を伸ばしている。まるで薔薇のタペストリーだ。
頭上にはアーチがかけられていて、ピンク色のダマスクローズが絡みついている。淡い桃色の花びらと、明緑色の葉。ひとたび薔薇のトンネルをくぐれば、かぐわしい香りが胸いっぱいに広がる。
絵画のような美しい庭園。だけど、ちっとも僕の心をなぐさめてはくれない。
この庭園は、お母様ご自慢のローズガーデン。
壮大なる「ごっこ遊び」のセットの一つなのだから。
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