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「おい、そこのボウズ。もう店じまいなんだが、少し売れ残っちまってな。よかったら持っていきな!」
行商人のおじさんが、青リンゴをひとつ、投げて渡してくれた。虫食いだらけのリンゴが、僕にはどんな宝石よりも輝いて見えた。
「ありがとう、おじさん!」
服にこすりつけて泥を落とし、一口かじってみた。シャクシャクと咀嚼しているうちに、酸味が口いっぱいに広がり、ほのかな甘みが追いかけてくる。
「おいしい、すっごくおいしい!」
「生の果物を食べる」という、庶民的で貴重な体験にわくわくした。お屋敷では「お腹を壊すといけないから」という理由で、テーブルに生の果物が並ぶことなんて滅多にない。煮たり焼いたりして調理されたものしか給仕されないのだ。
ただかじるだけで、こんなにおいしいのに。
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