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「ミア、こんなところにいたのね。探したのよ」
光沢あるビロードのドレスを着たお母様が、僕に抱きついてきた。薔薇の淡く麗しい香りを、お母様の強烈な香水がかき消していく。
「ああ、私のミア。今日も本当にかわいらしいわ」
目を反らしたさきには、噴水を受け止める水盤があった。ゆらゆらと揺れる水面に、はっきりと僕の姿が映っていた。
身に着けているのは藤色のドレス。胸元は細かいレースでおおわれ、スカート丈は長く、足をすっぽり隠している。オレンジブロントの髪は波模様を描きながら腰まで伸び、唇には紅がひかれている。どこからどう見ても、貴族のお嬢様だ。
どこまでも滑稽だ。僕は偽物の令嬢なのに。
コルセットでウエストを締められ、胸元には綿がつめこまれている。ふわりとしたスカートの中には、きちんと男性の証だってある。
……お母様、僕は男です。男なのです。
いつまで、この壮大なごっこ遊びを続けるおつもりなのですか?
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