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ここでは、僕は「僕」でいられる。
僕がアランドル家の偽物令嬢だなんて、誰も知らない。誰にはばかることなく、ありのままの僕でいられる。お母様の顔色をうかがって、お嬢様役を演じる必要なんてない。
ついでに、歩きながらリンゴをかじるなんて無作法なことをしても、とがめる人は誰もいない。
(僕は自由だ。自由なんだ!)
もちろん本物の自由じゃない。
こんなの、かりそめの自由だ。
朝にはお屋敷に戻っていないと、お母様はきっと半狂乱になる。連れ戻された僕は、激怒したお母様に幽閉されてしまう。そんな未来が容易に見える。
僕がこっそり出歩いてるなんて、絶対にばれてはいけない。こっそり自由を謳歌するための、秘密の時間。それがこの「夜の散歩」だ。
鼻歌を歌いながら歩いていた僕は、ふと足を止めた。……女性の悲鳴が聞こえたからだ。
リンゴの芯を投げ捨てて、僕は悲鳴のほうに走り出す。こうして僕は、自ら巻き込まれていった。運命の出会いにつながるトラブルに。
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