1 初夏のファンファーレ

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 取り出したのは、持ち手のないティーカップと、受け皿。遠い異国から運ばれてきた、オリエンタルで貴重なものだ。弾いただけで割れてしまいそうなほど、繊細で美しい。 「ティーカップの中には、砂糖漬けの薔薇の花びらが入っているのよ。ここに今からお茶を注ぐの。ほら、麗しい香りがしてきたでしょう?」  砂糖漬けの薔薇が花開き、ローズティーが完成した。上流階級しか嗜むことのできない、ぜいたくな飲み物だ。透きとおった美しい色が目を楽しませ、芳醇な香りが鼻孔をくすぐってくれる。 「さあ、いただきましょう」  薔薇にかこまれた庭、清潔なリネンのクロスがかけられたテーブル、銀食器に磁器、そしてローズティー。誰もがうらやむ令嬢としての暮らし。それでも僕の心は、これは違う、違うんだと訴えていた。 (僕だってお兄様たちのように、立派な男でありたいのに)
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