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このアランドルのお屋敷は、もともと城砦だった建物だ。まるで僕を閉じ込めるための、堅牢なドールハウス。僕はここでしか生きることを許されない、ただの愛玩人形だ。
暗澹とした気持ちでティーカップを見つめていると。ローズティーの水面に、急に執事の姿が映った。
「奥様、失礼いたします。お耳に入れておきたいお話が」
「なによ、せっかくミアとお茶を楽しんでいるところなのに。後にしてちょうだい」
「申し訳ございません。ですが、実はロンドンにいらっしゃる旦那様が……」
執事はお母様に何事かを耳打ちする。そのとたん、お母様の顔色がかわった。
「なんですって……⁉」
お母様が手にしていたティーカップが手から滑り落ちる。カップは地面に落ち、ガシャーンと割れてしまった。その耳障りな音が、なぜか僕には、物語の始まりを告げるファンファーレに聞こえたのだった。
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