たからもの

11/13
前へ
/13ページ
次へ
「美波は?まだ音楽してんの?」 1番苦しい質問だった。 けど、彼が話してくれたぶん、私も話そうと思った。 音大に入学して、辞めたこと。ピアノも手放したこと。今は音楽から離れていること。 「そっかぁ、美波が音楽してるとこ、好きだったけどなぁ」 一瞬何を言われたかわからなくて、何も返事はできなかった。 帰り道、田舎は街灯が少なく暗い。 私の頬には涙が流れていた。 私はなんで、勝手にこんなに多くの好きなものを手放してきたんだろう。 私はなんで、誰かと比べて自分の磨いてきた宝石を捨ててしまったんだろう。小さくて脆くて、だから大切に磨いていたのに。 私はどこで、自分をなくしてしまったんだろう。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加