お母さんの探しもの

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

お母さんの探しもの

 信号を待つ間、お母さんはきょろきょろと探しものをするみたいに周りを見る。信号が青になってからも、横断歩道を渡るときも、本屋さんの駐車場を横切るときも、お母さんは絶対に携帯を見たり、音楽を聴いたり、俯いたりして、周りが見えなくなるようなことはしない。  あんまりきょろきょろしてるから、お母さんはときどき、親切な人に声をかけられる。「道に迷いましたか?」「何をお探しですか?」。でも、お母さんは首を振る。「いいえ、大丈夫です。お気遣いなく」。そして、その親切な人に気づかれないくらい、ほんの少し唇を噛む。  なぜって、お母さんは知っている。探しものは永遠に見つからないってことを。二年前、車にはねられて死んでしまった僕には、もう二度と会えないってことを。  だけど、お母さんは今日もきょろきょろしながら道を歩く。死んだ僕には会えなくても、僕みたいな子は見つけられるかもしれないから。僕みたいに道に飛び出すような子を、今度こそ、救うことができるかもしれないから。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!