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「じゃあ、これは覚えてる?」 「……なんだっけ、これ」 わたしはポーチから、小さなくてかわいらしい狐のキャラクターがデザインされたお守りを取り出して、あなたに見せてみる。 「うーん、お守り……?」 さすがに、覚えてないかな。 「……ああ、初めてのデートのときのか、もしかして」 「正解!」 覚えていてくれた。 嬉しさと満足感と同時に、試すようなことをしたのを、ちょっとだけ後悔する。忘れていたって仕方のないことなのに。 でも、ちゃんと、覚えていてくれたんだ。 「昔ながらのお土産物屋さんに入ったときに、わたしが見つけて」 「うん、かわいいかわいいって言うから、『気に入ったなら、買ってあげるよ』って」 「あのとき、すごく嬉しかったんだよ。だから、いまだにずっと、持ち歩いているの」 「そんなに? 確か、大した金額じゃなかったのに」 「こういうのはね、金額の問題じゃないの」 そう、わたしのために買おうとしてくれた、その気持ちが嬉しかったのだから。 今だって、わたしの問いに応えて思い出してくれたことが、とても嬉しかったように。
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