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「これは、さすがに覚えてないよね」
「……?」
わたしが渡したものを、あなたは怪訝そうに見つめる。
「これは難しいな……何かの、かけら?」
「そう。あなたが初めてわたしの部屋に泊まったときの、コップ」
初めて一夜を共にした、その翌日。
あなた用にと、さっと近くの百円ショップで歯ブラシやら何やらと一緒に調達してきた、安物のコップ。
なんの飾り気もないし、お揃いでも何でもない。
でも、ふとした弾みで割ってしまうまで、あなたがずっと使っていたコップ。
「そんなのも、大事にしてくれてたんだ。ほんと、物持ち、いいね」
「えへへ」
たとえかけらだけになってしまったって、わたしにとっては、あなたとの思い出の一部。
幸せな記憶に繋がっている、大切な宝物のひとつなんだ。
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