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僕はふらふらと引き寄せられるように店に入り、そのポップを凝視した。
雑誌のエッセイ大賞の告知だ。
〔この町で生まれた温かいファンタジー〕、〔心を救ったのは優しい鳥の化身〕
僕は恐る恐る、そのポップの下に積まれた小説誌を手に取って、ページをめくった。
『あの日、恩返しに来てくれた鶴さんへ』 西谷日奈子
――まだ、覚えてくださってますか? 鶴さん。私あの日、あなたに救われました。
僕は数行読んで、雑誌を閉じた。
胸が苦しくて泣きたくなって、嬉しいのか哀しいのか分からなくなった。
ギュッと雑誌を握りしめ、表紙に描かれたビニール傘の水彩画を見つめる。
覚えていますよ。忘れるわけないじゃないですか。たぶん一生、忘れることなんてできないです。
「ほら見ろ、外一気に晴れたぞ。もう傘いらね」
僕の気持ちを知ってか知らずか、横で友人が能天気に笑った。
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