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「今日は早く帰るから夕食は一緒に食べられるな」と朝茂之さんは言っていた。この家の夕ご飯の時間は茂之さんに合わせるから不規則で、どのくらいお腹を空かせておくべきかよくわからない。カラカラと揚げ物をあげる音が空の胃を刺激する。今日の夕飯は唐揚げだ。
玄関で鍵が刺さる音を左耳がキャッチする。よし、勝負の時がきた。
空腹時に真剣な話をするのも無粋だし、満腹では物事がどうでもよくなってしまう。半分食べたときが勝負と決めていた。「好きなだけ食べていいよ」と大皿に盛られた唐揚げは、一人当たり7〜8個である。4個食べたら話を切り出そう。
唐揚げは少し冷めていてもカリッとした衣が肉汁を閉じ込めていて、すごくおいしい。美咲さんの料理は匂いや音で食欲をそそるのに薄味だから、気づいたらたくさん食べてしまう。油断したら6個食べていた。
「日本の食料自給率ってどれくらいか知ってる?」
お茶で口をすっきりさせてから切り出す。つけていたテレビもちょうどクイズ番組だ。タイミングとしては問題ないだろう。
「どうした急に? あんまり多くはないんだろうな。20%くらい?」
「38%だよ」
よし、話題にのってもらえた。
「小麦はどれくらいかわかる?」
畳みかけるようにパンへと話題をつなぎたい。
「小麦は低そうだな! うーん、15%!」
茂之さんはクイズ好きなんだろう。笑顔で僕の答えを待った。
「惜しい。12%。米は100%だけど、小麦はアメリカ、カナダ、オーストラリアとかから輸入しているんだ」
だから朝食も米にした方がいい。そう思ってもらえるに違いない。
「そうかそうか、一真は賢いな。そんな数字まで覚えて。偉いな」
茂之さんは僕を見つめて微笑みながらそう言った。違う、褒められたかったわけではない。
どこで覚えたか聞かれたからパソコンで調べた答える。そんなこと今の時代簡単に調べれるんだ。別に賢くなんかない、賢いのはパソコンだ。
「当面はお古のパソコン貸してやるけど、気に入ったなら夏休み終われば自分のやつ買ってあげてもいいかもな」と茂之さんは満足気に言った。調べたことを活かせることは賢さなのだと話す。違う、僕が欲しいのは賢さでもパソコンでもない。
僕はそこから朝食の話に変えられずむっとしてたが、全く気づいてもらえず茂之さんと美咲さんは僕の将来がどうだとか楽しそうに話していた。
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