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8月は暑い。そんなこと誰もが知ってる。だから家にいた方がいい。
そんなことは明白なのに、僕は2人に連れられ車に揺られ、田んぼにいた。
僕は朝にお米を食べたいだけだった。なのに茂之さんは「食料自給率に関心があるなら実際に作ってる場所に行こう」と計画を組んでいた。僕は農作業なんて小学校の体験授業でしかしたことがないし、別に興味もない。
太陽が刺さるような暑さだ。僕は毎日家にいるから肌は白いけど、これではトーストのように焦げてしまう。
田んぼの体験といっても、8月の稲はもう穂がつき始めていて、なんなら穂から白いつぶつぶを出していた。これは稲の花らしい。花は可愛くなくても花でいいのだろうかと思う。人間は取り柄がないと社会で生きていけないのに。
やることも大してなくて、違う草があったら取るよう言われていた。あと田んぼにはいろんな虫がいるとも言われたが、別に虫取りに興味はなかった。
とは言っても僕は田中家の子どもなのだから、子どもらしくしなければならない。暑いけど田んぼに足を突っ込む感触も冷たさもなんだかんだおかしくて、うろうろしてしまう。
ふと、茶色の物体が動いた気がした。ん?
「茂之さん!ちょっと見て!」
僕はその物体を後ろ手に持って、茂之さんに近づいた。
「どうした?」と僕が何か持ってるのに気づき、茂之さんも寄ってきた。
「はい、これ!」とその物体を茂之さんの顔の近くに差し出す。茶色くて、大きくて、ふてぶてしい、カエル。
「うわぁ!」と漫画のように驚いて、茂之さんは2、3歩よろめきながら尻餅をついた。
「なんだよもうー、ケツ冷てぇ!」と叫ぶ茂之さん。
美咲さんが笑うから、僕もニンマリ笑った。
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