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やらかした。身体が熱いし重くて、鼻がぐずぐず、ごまかしもきかなくなった。発熱。病弱ではなかったのに。
昨夕美咲さんの運転で医者に連れられ、夜ご飯も食べれず寝続けた。今は朝らしい。お腹が空いたと思うから昨日よりはマシになったのだろう。茂之さんと美咲さんに顔を覗かれている。
「大丈夫か?」
スーツ姿の茂之さんに声をかけられる。
「うん……今何時?」
9時という答えを聞くが、ん、おかしい。今日は平日だ。
「えっ、仕事は?」
「ああ、遅刻するからいいんだ」
「ごめんなさい……」
迷惑をかけて悪い気持ちになる。田中家にふさわしい子にならないといけないのに。
「子どもは心配かけるものだからいいんだ。メシは食えそうか?」
心配だって、たくさんかけたら嫌になるに決まってる。結局うまくいかないのか。悲しくて泣きたくなる。
「食べられる……」
「何がいい?」
「トースト」
田中家の朝はパンなのだ。面倒ばかりかけてはいけない。
「体調悪いときにトーストなんて食べないだろ。食べれるならうどんか? ごはんがいいならおかゆとかか?」
「じゃあごはん」
「こんなときだから、甘えていいんだからね。冷凍ご飯あるから、おかゆ作ってくるね」
美咲さんはおだやかにそう言った。
甘えていいというのはよくわからない。ふさわしい子にならないと、その家にはいられないのだ。
ただひょんな形で朝ごはんに米が用意されることになった。望んでいたのは味噌汁やおかずと共になったご飯だけど。
「これからも朝ごはんは米がいい」
ぼんやりした頭で、つい思ったことを口にした。
「そんなのいくらでも炊くし、冷凍ご飯もあるし、好きにしていいんだからな」
なんだ、それで叶うのか。
茂之さんは汗を拭こうかとか飲み物はいるかとかおでこを冷やそうかとかやたら声をかけてきた。僕は考える気も起きないし、早く仕事に行っていいのに。
美咲さんの作ってくれたおかゆは鼻が詰まっていたから味はしなかった。けど身体が温まって、ふやけた米も一粒残さず食べたくなって、なんだかニヤけてしまった。
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