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陰キャなヒキニート予備軍は美少女な小悪魔の誘惑に屈す!?
『陰キャなヒキニート予備軍は美少女な小悪魔の誘惑に屈す!?』
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「何してるの?」
教室の隅、僕がいつも通り一人で読書に励んでいると横から声をかけられた。
いつもクラスの中心で騒いでる陽キャグループの女子だ。
なにしてるのって、見て分かるだろ。
と、思わなくもないがそれはボッチの理屈なのだろう。
分かっていても聞くことで会話のきっかけになる。
彼らは会話のために生きている、コミュニケーションをとらなければ死んでしまう、まるで泳ぎ続けなければ息ができずに死んでしまうマグロのような生物だ。
そのためなら読書の邪魔になるかもしれないという懸念なんて、浮かびもしないのだろう。
つくづく陽キャのことは好きになれない。
ま、陽キャたちも俺のことは嫌いだろうが。
こうやって声を掛けられるたびに無視を決め込んでるせいで、クラスでの立ち位置はみるみる悪化している。
しかし仕方ないのだ。
俺はクラスでの人間関係より、本の内容の方が興味があるのだ。
だから、これは自業自得で必然だったのだろう。
「何無視決め込んでんだよ!!」
声をかけてきた女子が普段から仲良くしてるグループ、その内の男子一人が急に声を荒げた。
こういうところも嫌いなのだ。
彼らは周りのことを考えず自分を押し通す、それが許されると信じている。
そしてこの教室という小さな世界で、それは実際許されてしまう。
ああ、まるで独裁者だ。
それも演説や民衆の支持といった形で成し遂げられたヒトラーのような理知的な独裁ではなく、暴力と支配によって成し遂げられる織田信長のような野蛮な独裁だ。
まぁ、ヒトラーも信長もあり得ないほどの天才だったわけで、こんな奴らと比較されるのは心外だろうが。
小学生にとって学校とは世界そのものであり、クラスとは国だ。
俺としては決して大げさに言っているつもりはない。
先生?
あれはいわば神だ。
クラスに学校にいる限り逆らうことは許されない。
下着を含む衣服の指定、髪色や髪型の指定。
そしてクラスの独裁者は、すべからく神の加護を授かる者だ。
彼らの加護はすさまじい。
窃盗罪や暴行罪、障害罪、殺人罪からでさえ守護する。
法律どころか憲法すらも無視し、人種差別を是とする絶対神だ。
だがらきっと彼も守護されるのだろう。
怒りに顔を歪め今にも殴り掛からんとばかりに俺へと近づいてくる陽キャを見やり、ぼんやりと思う。
そして残念なことに俺は神の守護かにないので、もしやり返しでもしたら一方的に俺が悪者になってしまうので何もできることはない。
そもそもスポーツ万能アウトドア派の陽キャと読書大好きインドア派の陰キャでは抵抗なんてできようはずがないのだが。
喧嘩なんて選択の先は、誰もが結末を予想できるだろう。
「調子乗ってんじゃねぇぞ!」
調子に乗った覚えなんてないんだが、そう反論する暇もなく。
そもそもそんなことする気はないが。
顔面を殴られた。
静まり返っていた教室が、張り詰めた空気がざわついた。
初めて殴られた感想は、意外と痛くなかったなというものだった。
彼の運動神経からしてもっと強力なものが来ると思っていたが、特別手加減したというような様子もなかったし。
ま、当然といえば当然か。
彼らは陽キャではあるがヤンキーではなく、スポーツ万能ではあるが特に武術を習ってるというわけでもない。
殴りなれているわけでもなく、殴るすべを知っているわけでもないのだ。
だが意外と痛くなかったというだけで、残念ながら余裕で大丈夫でしたとはいかない。
か弱いインドア派なのだ。
当然激痛ではある。
「大丈夫?」
ざわつく教室に、凛とした良く通る声が響く。
俺と同じように普段ひとり本を読んでいる女子で、ボッチの俺とは違い孤高という言葉が当てはまるようなそんな少女だ。
彼女がこんな行動に出たことに驚いた。
俺は彼女のことを詳しくは知らない、ただのクラスメイトでしかない。
ただ、こんな面倒ごとに首を突っ込むようなタイプには見えなかった。
俺と同じような、力ない弱者だと思っていた。
「……助けてほしい?」
俺が黙ってたからか、彼女は再び俺に声をかける。
助けてほしい?
果たして、彼女は俺のことを助けてくれるのだろうか?
助けられるのだろうか?
クラスのいじめられっ子が二人に増えるだけなのでは?
そんなことを思ったが、見て見たかった。
幼いころあこがれた弱者を助けるようなかっこいいヒーローなんていないと思い知って、
自分が力ある者にはなれず弱者であり続けるしかないと思い知って、
そんな世界で神の加護を受けず強くあれる彼女を知りたいと思った。
「助けて!!」
僕がそういうと、彼女は満足げにうなずいた。
そして、彼女はポッケからスマートフォンを取り出した。
神はこの世界にスマートホンは原則持ち込み禁止と定め、持ち込む場合は事前に申請の上朝神に預けると取り決めていたが、それをポケットから取り出した。
彼女は陽キャどころか神ですら恐怖の対象ではないらしい。
それはまるで……
彼女は少しスマホを操作し、耳に当て口を開いた。
「もしもし警察ですか!? 友達が男の人に暴力を振るわれていて……」
彼女は無表情で、逼迫した声で話し出した。
……悪魔のようだ。
そう思うと、自然と腑に落ちた。
そうか、彼女は悪魔なのか。
神を英雄を恐れず、弱者に手を差し伸べる。
それはまさに物語に登場する悪魔そのものだった。
俺は悪魔に魅了されてしまった。
そうか、哀れだと思っていた騙された人たちはこんな気持ちだったのかもしれない。
初恋、か。
恋なんてとバカにしていたが、案外いいものだな。
ひと通り話し終えたのか、通話を切りすました顔で読書を再開した少女を眺めそう思った。
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