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退社後、優しく聞いてみることにした。
「どうしたんですか?」
「ちょっとな……奢るからあそこのレストランでいいかな?」
「はい」
彼がそんな誘いをする事も珍しい
会社ビル内のレストラン
彼はビールを片手に話しはじめる。
何で別れたのか?
涙ながらに彼は語る
彼女が俺に尽くし過ぎているのだと
彼女が夢を諦めて働くのだと言ったから
彼は止めたかったけれど
彼の家は母子家庭で貧しくて、
彼が働いてやっと生計を立ているのだとか
日々ずたぼろに疲れて帰ってくる彼を放ってはおけないのだろう。
彼女の気持ちがよく分かる。
彼女の元を離れてからの彼はヨレヨレのシャツが多くなった。
「俺はあいつにまで無理させたくなかった」
「お前がそうだったらいいのに」
手を取ってくるその彼が、
とんでもなく汚らわしい者に思えてならなかった。
手をふり払い、好きだった彼を睨みつけた。
彼を怒鳴り付けた。
「彼女はあなたのことを考えたんだよ」
本当ならば彼を慰めて傍にいて、
彼の弱みに付け込んで彼女を思い出させない位私を心に刻み込む。
荒んでいる私にはそれが出来た筈だった。
でも不思議と言葉は出てこない。
彼女と仲直りさせる励ましの言葉しか浮かばなかった。
「すみません。私好きな人ができたんです。相談はこれまでということでお願いいたしますね」
まだイケメンと噂の大企業勤めの人と一度しか会ってはいない。
悪い人ではなさそうだったし、ご両親との話もしてくれて、いい家族のようだった。このまま価値観が合えばいいと思っている。
「中に入ることはできない。あのカップルに私は憧れたのだから」
後日、早乙女なつきと憧れだった彼は結婚したという。
そして私も、今月末で寿退社することが決まった。
相手はもちろん大手勤めの彼。
朝峰には美人な子紹介するつもり。
END
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