最終話、ここにいるということ

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 「もう、その話はまた今度しよう。自分の特技、たとえ全部奪われたとしても、必ず取り戻すよ」  「詩野輪さん、前向きだね。何か手伝えることってないかな?」  「ある。大深さん、助かるよ」  麗未は梨吹にまず、暗算の手伝いを頼んだ。梨吹が問題を考えている間、麗未は歌の練習を続けていた。学校で習った楽曲を歌う練習をし、初めは音が外れていたが、練習する度に麗未は歌が上手くなっていった。周りにいたブタたちはうっとりし、歌が好きな者が多かったか、元の人間の姿に戻っていく。  人間の姿に戻ったヴェノモの住人たちの協力も得て、麗未はピアノや習字の特技も取り戻すことが出来た。  麗未の特技で時間が掛かったのが暗算と料理だ。暗算は途中で分からなくなり、料理も黒こげにどうしても仕上がってしまっていた。麗未がくじけそうになっとき、梨吹が声を掛ける。  「特技を身につけるのって楽じゃないんだね。こんなに練習しないと出来ないなんてね。努力してやっと出来た特技をパッシブに奪われて、それでも前向きでいる詩野輪さんは強い子だよ」  「……本当、どこが冷たい子なのかな」  麗未はぽそっと言い、  「詩野輪さん、ごめん、聞き取れなかった。何て言ったの?」  梨吹が聞き返したが、麗未は首を振り、真っ直ぐ少女を見た。
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