第1話、リボンヘアゴムがない

5/7
前へ
/118ページ
次へ
 玲月と麗未と別れるとき、玲月は梨吹に手を振り返してくれたが、麗未は振り返さず鼻で笑ったあと、玲月と会話を続けていた。そんな麗未にムッとなっていた梨吹だが、ずっと気にしてはいられないと、自宅に帰った。「ただいま」と、いつも梨吹が自宅に帰ると「おかえり」と、迎えてくれていたおばあちゃんだが、返事は何も返って来ない。梨吹のおばあちゃんは少女が小学四年生のときに他界した。お父さんとお母さんの方は仕事で忙しく、帰りが遅いため、梨吹は冷蔵庫の中にある、お母さんの作ったおかずやお菓子を食べ、両親の帰りを待っていた。好きなテレビを見ながら、梨吹は髪を後ろに一つしばっていたリボンヘアゴムをほどく。それを手のひらの上に乗せ、眺める。リボンヘアゴムは梨吹のおばあちゃんの手作りだった。少女が小学三年生のとき、おばあちゃんからプレゼントにもらった。梨吹は大切にしているリボンヘアゴムを持ちながら、うとうとしそうになるが、外からネコの鳴き声が聞こえ、はっとなった。窓を開けると、珍しく遊びに来た黒ネコがちょこんと立っていた。黒ネコにかまい、逃がしたあと、梨吹は算数の宿題があることを思い出したようだ。リボンヘアゴムをダイニングテーブルに置き、自分の部屋に戻り、ノートを広げた。少女は算数が苦手であり、文章問題が出ると、途端に混乱してしまう。
/118ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加