第1話、リボンヘアゴムがない

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第1話、リボンヘアゴムがない

 梅雨明けの頃、号貝(ごうかい)小学校(しょうがっこう)の六年一組は全教科のテストを終え、本日はテスト返しが行われていた。担任の先生から出席番号順に名前を呼ばれ、生徒たちはテストを取りに行く。  「はい」  と、自分の名前が呼ばれる前に元気に返事をしたリボンヘアゴムで一つしばりをした女の子がいた。大深(おおふか)梨吹(りふ)だ。  「大深さん、まだ名前呼んでませんよ」  「すみません。出席番号順で呼ばれる名前、いつも決まっているからつい、先生が呼ばれるより先に返事してしまいました」  梨吹はクラスメートのほぼみんなの笑いをとりながら、先生から返されたテストを片手で受け取った。梨吹が自分の席に戻るとき、  「ふざけた子」  小声で言ってきたショートカットの女の子がいた。詩野輪(しのわ)麗未(つぐみ)だ。聞こえていたか、梨吹は睨みながら、わざわざ麗未の席の近くを通り、自分の席に戻った。そんな梨吹に麗未はふっと笑い、少女は梨吹と反対のことをした。先生に名前を呼ばれてから返事をして立ち上がり、返されたテストをきちんと両手で受け取った。そんな麗未の動作に少々、いらっとしていた梨吹だが、麗未はクラスで優秀な女の子だった。休み時間になると、麗未の周りに何人かクラスメートが集まり、麗未にテストの点数を見せてもらっていた。何と、点数は全教科満点だったのだ。
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