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「──ソラ」
ベランダで夜風にあたっていれば、大好きな声で名前を呼ばれたからゆっくり振り向く。
亜麻色の髪に端正な顔立ち、セレストブルーの瞳を光らせて、カイは窓に寄りかかりながら私を見ていた。
「散歩行こ」
カイの誘いに素直に頷く。手が差し出されたので、遠慮なく自分のものを絡ませて繋いで。
寝静まった街に、2人分の足音が響く。空には星が瞬いて、ゆったりとした風が吹き、その中に混じる潮の香りが、今日も私達をその場所へ誘う。
海は日によって機嫌が違うし、空の天候によっても左右される。雨の日や風の日は波が荒ぶるし、快晴の日は光が反射してキラキラと光り輝く。遠いようで誰よりも近い、海と空は相反しているようで、限りない透明度で同じであろうとする。
海に着くまで、私とカイは一言も言葉を交わさなかった。何を言ったら、何から始めていいか分からなかったから、海を目の前にすれば何とかなるだろうと丸投げ状態で歩いていだと思う。
でも、やっぱりそれは当たっていた。
「……時間が経つのが速すぎて、嫌になるな」
ぽつりと零されたカイの呟きに頷いて、砂浜に腰を下ろす。やっぱり波打ち際ぎりぎり、少しでも強く波が迫れば足が濡れてしまうくらいの場所で、ぽつん、と2人で座っていた。
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