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「俺は諦めるつもりない」
「……、」
「離すつもりもない」
「……ぅ、」
「今さら、どっかの知らない男にやってたまるかよ」
「……っ、だって、遠いじゃん、」
子どもみたいに泣きじゃくりながら、カイの肩を埋めた。途切れ途切れに落とす言葉は、単純で簡単で、でも果てしなく、私の心だった。
「簡単に、っ、会えなくなるし、」
「うん」
「寂しくても辛くても、かいっ、隣に、いないしっ、」
「うん」
「……、怖いよ、私のこと忘れたらって思うと、こわくて、」
「忘れるわけねえだろ」
グイッと顔を引き寄せられる。
星が恐ろしいくらいに光を瞬かせる空を背景に、どこまでも澄んだセレストブルーが私を映す。泣いてないのに、濡れてるようで、海に溺れているのか、空を扇いでるのかもはや分からない。
でもやっぱり、全ての中で一番綺麗なその瞳は、私のものだ。
「……好きになる理由なんて、十分なほどあった」
「……、」
「お前に堕ちる理由だって、数え切れないくらいあった」
「……ぁ、」
「それくらい濃い夏を、お前がくれたから」
夏が、終わる音がする。
茹だるような暑さも、張り付く髪も、生温い風も、全部。
この夜で全部、終わる。
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