Ocean blue

7/9

154人が本棚に入れています
本棚に追加
/239ページ
零した声には何も反応がない。ただ、ゆっくりと上下する胸にとりあえずは安心して、目の前に横たわるそれ、──少年をじっと見下ろす。 滑らかな白い肌に、生まれたての朝日が刺さるから、奥に隠れている血管が透けて見えないか心配だった。鼻筋の通った精巧な作りの顔に、絶妙な位置にパーツが配置されている。撫でれそうなくらいに長い睫毛が影を落として、薄い唇には決して血色がいいとは言えなかった。 客観的に見ても美少年と形容するに相応しい少年が、誰もいない海で寝ている事実に正直動けなくなっていた。いや、寝てるんじゃなくて気絶とかだったら、こんな呆然としている暇なんてなくて、さっさと行動をしなければいけない。 だから反応を見るためにとりあえず触れようとした。肩に手を伸ばしたその瞬間に、閉じられた瞼が唐突に開いたので、思わず動きを止めてしまう。 ───あ、レイラと同じ色。 今日拾ったシーグラスの中で一番多かった色。 海の色……、いや違うこれは、空の色だ。 刹那、世界は反転したかのような感覚に陥る。見下ろしているそれが空だから、私の背後には海があるんじゃないか、と疑ってしまうくらいに。 私はその瞳の色に、溺れていた。 何を訴えかけるわけでもなく かといって逸らせるわけでもなく 完全に堕ちてしまう前に辛うじて自分の声で自分を引き止めた。 瞬間、それまで意志をなくした人形のように私を見上げていたそれが、煩わしそうに細められたので、その時にやっと、あ、これは人間だ、なんてとっても間抜けなことを思った。
/239ページ

最初のコメントを投稿しよう!

154人が本棚に入れています
本棚に追加