秘書、副業を決意する。

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医学部医学系は臨床と基礎に分かれている。 簡単に言えば、患者さんを診るのが臨床。 研究をするのが基礎だ。 父は基礎、薬理学の教授だった。 仕事中のことだった。 正確に言うと、定時は過ぎて、秘書が帰った後のこと。教授室で倒れたのだ。 脳卒中だった。 発見が早ければ助かった可能性が高い。 後遺症は残るけれど。 しかし、秘書が帰った後だったこと。 その後、たまたま誰も教授室を訪ねなかったことで、発見が遅れた。 連絡が取れず、帰りがあまりにも遅いので、大学の守衛室に電話をしたところ、発見されたのは日付が変わる少し前だった。 手遅れだった。 そして父は帰らぬ人となった。 当時私は大学の4年生。 お嬢様育ちで、おっとりしたお姫様のような母には、受け止めきれなかった。 そのため、葬儀は父の大学時代からの親友であった廣澤院長の助けを借りて、私が執り行った。
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