洞窟にて

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 石筍に寄りかかりながら、イライザはどうにか思い出そうとしていた。 「ねえ、思い出せない?絶大な権力を握って繁栄を謳歌した男のこと・・・」 「シチリアの?マフィアか何か?ドン・コルレオーネ?」  マホガニーのロマンチックのかけらもない受け答えに、イライザの恋心は2割減・・・。 「あっ!」  突然イライザは可愛いらしい顔に笑顔を浮かべて、手を叩いた。その音が不気味に洞窟の中で反響して、コウモリがキィキィと騒ぎ出した。 「どうしたの?」と、マホガニー。 「思い出したの!ダモクレスの剣!」  マホガニーは洞窟の天井を見上げた。そこには、剣のように先の尖った鍾乳石が、今にも落ちそうに揺れていた。 〜終わり〜 「ダモクレスの剣」  古代ギリシア、シラクサ(シチリア島)のダモクレスは、僭主デュオニュシオス2世の栄華を羨んだ。デュオニュシオス2世は贅を尽くした饗宴にダモクレスを招待し、玉座に腰掛けるよう勧めた。ダモクレスが座って天井を見上げると、今にも切れそうな細い糸に1本の剣が吊るされていた。僭主の栄華がいかに危険なものか、ダモクレスは理解した。
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