令嬢と最強種

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「何を言っているのかしら。そんなもの、感じるに決まっているでしょう。貴方の話が本当なのだとしたら、この世界が滅びずに済むかどうかは、私が正しく王になれるかどうかにかかっているのよ?」  ここでわざわざ、本当なのだとしたら、と言い置くあたりがアルマニアらしい、と男は思った。  見ず知らずの男をある程度信に値すると判断しつつも、その全てを信じ切っている訳ではない彼女の思慮深さは、男が彼女に見ていた姿そのものだ。 「この世界が滅ぶの滅ばないのと話した俺が言うことじゃあないんだが、……それだけのものを背負わされておきながら、よくもまあ平気そうな顔してられるなぁ。プレッシャー感じてる素振りなんて、おくびにも出さないじゃねぇか」  そんな彼の言葉に、アルマニアは肩を竦めて返した。 「そういうのは表に出してはならないと、散々教え込まれてきたの。それに私、貴方が思っているほど深刻に受け取ってはいないのよ。確かに世界の存続がかかっていると言われたら少し尻込みしてしまうけれど、結局私のやることは変わらないわ。世界中の人々を民と尊び、導き守れるように努めるだけよ。それが王というものでしょう?」  その結果、アルマニアが正しくそう在れれば世界は存続し、そう在れなければ世界が滅びる。それだけだ。世界が関わっていようといまいと、やることは変わらないのだから、それならそういう余計なことは考えない方が良い。 「私は英雄になろうとは思わないし、救世主でもない。貴方だって、私にそんなものは求めていないのでしょう? だって、それらと王は両立しないもの。だから、世界のことは貴方に任せるわ。それは王を目指す私の役目ではなく、貴方の役目でしょう?」  何か間違ったことを言っているか、という自信に満ちた目が、男を見つめる。それを真っ直ぐに見つめ返した男は、暫しの沈黙ののち、再びぶはっと噴き出した。そしてそのまま、とうとう腹を抱えて笑い出す。
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