プロローグ

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プロローグ

「お前のような冷酷な女に、国母たる皇后が務まるものか! 皇后となるべきは、サヨのような心優しく思慮深い女性だ! お前がしてきたこれまでの努力を思い、慈悲の心を持って我慢し続けたが、もう限界だ! 今を以ってお前との婚約を破棄し、貴族位をはく奪の上、我がシェルモニカ帝国より追放処分とする!」  玉座に座りながら強い声で言い放った、シェルモニカ帝国第一皇太子、ベルナンド・ブレンマギア・チェインバーズの言葉に、彼の婚約者であるロワンフレメ公爵令嬢、アルマニア・ソレフ・ロワンフレメは、両の手を強く握りしめた。だが、彼女はその美しく聡明と謳われた顔に怒りと失望を上らせることなく、ただ常と変わらぬ平坦な表情のままで皇太子を見つめ、形の良い唇を開く。 「ベルナンド殿下、今されたお話は、皇帝陛下もご存知のことですか?」 「父上が病床に臥せっておられるのはお前も知っているだろう。そんな父上にこんなくだらぬことで心労をお掛けする訳にはいかない。そんな配慮すらもできないとは、お前という女は本当に冷酷なのだな」  冷たい声で責めるように言った皇太子に、アルマニアは目を細める。 (……そう、皇帝陛下にはお話していないのね)  内心で呟いてから、次いでアルマニアは、玉座の隣に置かれた皇后の椅子に座る少女をちらりと見た。  水鈴(みなすず)小夜。一年前に大神殿の泉に突如として現れた、神話に語られる神に愛されし聖女。  世界でも他に類を見ない黒髪とダークブラウンの目を持つ彼女は、この世界とはまるで異なる世界からやってきたと言い、あっという間に皇太子の寵愛を得て彼の恋人となった。  それだけならば、別に良かった。皇太子が誰を恋人にしようと、アルマニアの知ったことではない。だが皇太子は、次期皇后として婚約しているアルマニアを差し置いて小夜を皇后にと推すようになり、周囲の貴族たちもそれを後押しし始めたのだ。  別に、アルマニアは皇后の座に固執している訳ではない。皇太子のことを愛している訳でもなければ、皇后という立場に魅力を感じている訳でもなかった。  ただ、次期皇后として幼い頃より教育を受けてきた彼女にとって、小夜を皇后にすることだけはどうしても許せなかった。
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