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「俺のどこがいいんだか」
「長谷くんは自分のいい所は分からないの?」
骸骨みたいに細い指が、ピースをつまんだ。
「さぁなー。興味ねぇし」
「そうなんだ。長谷くんにはいい所がたくさんあるのに」
私、いっぱい言えるよ。
フェンスの影だけが色濃く残る混凝土に、その声がしっとりと落ちる。物好きだな、と腕を組み直せば、背を預けた壁から冷気が流れ込んできた気がした。
「たとえば?」
興味本意で聞いてみる。
「私の話を聞いてくれるところ」
白がまたひとつ繋がった。
「それ、いい所なのか?」
「もちろん。だって、私の話を聞く人なんかいないもの」
「……」
触れるのは面倒だ。踏み込んだらきっと引きずり込まれる。彼女の左手に巻きついた包帯を一瞥して、俺はまた視線を夕焼けに投げた。
「ついでだから、もう一つ話そうよ」
声が少し鮮明になる。きっとキリカが俺の方を見た。
彼女はきっと今、俺を見ている。けれど俺は、目を合わせないように燃え盛る夕陽ばかりを眺めていた。
「ねぇ、体育祭のことは覚えてる?」
返事をしなくても、彼女は勝手に話を始めた。
「みんな馬鹿みたいに熱中しててさ、正直着いてくのが大変だったよ。でも、クラスで一丸となって何かをやるのって、こういう時じゃないとないから素敵だよね」
「ほんとにそう思ってるか?」
「あれ、どうして疑うの? 別に嘘は吐いてないんだけどなぁ」
濁った瞳が真白なパズルピースを捉える。色素の薄い細指に挟まれたそれは、ギリギリと悲鳴をあげた気がした。
「長谷くんは何か体育祭の思い出とかない?」
「ない」
「嘘でしょ。やる気なさそうにしてるけど、実はこういうイベント好きだよね」
「……」
寒気さえ感じる綺麗な笑みがそこにある。
「……クラス対抗リレー、とか」
「ふふ、だよね。あの時の応援は楽しかった。私も隅っこで控えめにだけど、応援してたんだよ? あんなに声出したのは久しぶりだったな」
「……静かなタイプだもんな」
「ちゃんと知ってくれてるんだ、嬉しいね」
「……」
かちり、とピースのハマる音が聞こえた。どこか恍惚さをはらんだその声が、耳奥でねっとりと絡む。
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