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「そうだ、ここでクイズね」
「いきなり何だよ」
「気まぐれよ。長谷くんはクイズ好き?」
「や、別に。興味無いし」
「そう? 残念。じゃあ一問だけ」
話が噛み合っていない。そんなツッコミは彼女には通じないので、ゆっくりと動くパズルピースの影を見つめていた。
まぁ、一つくらい付き合ってやれば、キリカも飽きて「今日はもう帰ろ」とか言い出すだろう。それでも面倒だと嘆息して、腕を組み直した。
「私が後悔してることって何だと思う?」
音が消えた。ソイツの声だけが、妙に大きく反響する。首元に何か触れた気がして、俺は慌てて手で払う。
「当ててみてよ。長谷くんに当ててほしいな。ヒントは、意外とどうでもいいことだよ」
「……どうでもいいこと?」
「そう。笑えるネタだと思うよ」
前髪の奥の瞳がキュッと細まる。取り込みきれない夕焼けが、瞳の奥から流れ落ちた気がした。
「好きなアーティストのCDが買えなかったこと」
「ふふ、違うよ。無難な答えを出してきたね」
「じゃあ何だよ」
「そこは長谷くんが当てないと意味ないよ」
「……」
意地でも俺に答えさせる気だろう。答えたくもないクイズに付き合わされるのは御免だ。早々に降参の意志を見せるため、俺は手を挙げて首を横に振っておいた。
「もう降参? 早いなぁ。……本当は知ってそうなのにね」
そのミルクパズルのように純粋で、それでいて何にも染まる濁った瞳が虚無的に微笑む。
「ねぇ、覚えてる? 私が後悔していたこと」
その問いかけは、死刑宣告のようだった。ごくりと喉が鳴る。乾いた口内が、ヒリヒリと小さな悲鳴をあげた。
「――好きな人に告白できなかったこと」
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