4人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ちょっと、アリエル! あなた、この間の占いで、恋人と別れないほうがいいって、言っていたわよね。彼は信用できる男だからと。……とんでもないわ、奴ったら、昨夜、私の有り金盗んで雲隠れしたわよ! どうしてくれるのよ!」
アリエルは首をすくめた。
女の怒りは尋常でなく、その瞳には憤怒の焔がありありと見て取れる。さりとて、アリエルには抗う言葉もない。ただ弱々しく、謝罪のことばを述べるのみだ。
「すみません……」
「まあまあ、お客さん、この子も悪気があってやったわけじゃないから」
「当たり前よー!」
……やれやれ、せっかくの、マスターの取りなしも効果なしだ。
女はその後も、ひとしきり、このうそつき、出来損ないの占い師、と罵声を酒場中に響かせると、乱暴にドアをバタンと閉めて出て行った。それを見やって、マスターがアリエルのそばに立つと、苦々しげに言を述べた。
「アリエルちゃん、あんた、占い師向いてないよ。稼ぎはザザに任せたらどうだ?」
アリエルは申し訳なさに縮こまらんばかりだ。
「……わかってるわよ、マスター」
だが、彼女は小さな声で抗った。マスターが肩をすくめるのを横目で見ながら。
「……でも、ザザは身体が弱いし、なんとか少しは私の稼ぎで彼を楽にしたいのよ」
「占い師……やめるかなぁ……でも他に仕事、見つかるかなぁ」
数時間後、アリエルは夜道にて、ぶつぶつと独りごちながら、歩を家へと進めていた。自分に占い師としての才能が無いのは、今日の騒動を見ても明らかだ。
だが、長いこと隣国との戦争が続くこの国は、ただでさえ失業者に溢れている。アリエルとて、他の仕事に就ければそうしたい。だが、そうも容易にいかないのが、このご時勢というものであった。
それでも、アリエルは、考える限りの仕事のあてやつてを、頭に思い浮かべつつ、暗い路地裏を歩いていた。
最初のコメントを投稿しよう!