流れる雲を仰いで

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*  小学生のとき、いじめにあっていた私は中学では部活に入らなかった。なるべく目立たないように三年間を過ごした。  高校生になって小五のときに私をいじめていた男子の一人と同じクラスになった。 「チビ山、おまえまだ生きてたんだ」  ニヤニヤ笑いながら近づいてきた彼と私の間にするりと立ったのは、彼よりも背の高い知らない女子。 「あんた何歳? なにダサいこと言ってんの?」  吐き捨てるように彼に向かって言ってくれたのが美鈴だった。  同じクラスの私たちは友達になった。初めてできた友達。そして私は長身で凛とした美鈴に憧れた。 「ねえ、ナル。バレーボール部に入らない? 私、中学でもやってたんだ。今日、一緒に体験入部しようよ」  美鈴に誘われてしぶしぶ参加した体験入部では、ボールが怖いとしか思わなかった。  帰り道で、並んで歩きながら美鈴に告げる。 「私はやっぱりムリだよ。スポーツなんてしたことないし」  先輩のトスで、バンバンとスパイクを決めていた美鈴とは違いすぎる。 「誰だって最初はそうだよ。ナルは背が低いからセッターかリベロに向いてるかも。それにナルはいつだって下ばっかり向いてるでしょ? バレーボールはね、ボールを追って上を向くスポーツなんだ」  立ち止まってそろそろ夕焼けが始まる空を仰いだ美鈴は、そう言ってにこりと笑った。  つられて仰いだ空は、青の中にオレンジに染まる雲がゆっくりと流れている。私は何年もこんな空を見落としていたのかもしれないと思った。  セッターにもリベロにもなれなかった。でも私はずっと美鈴とバレーボールを続けてきた。  二年と半年、レギュラーにはなれなかったけれど、辛い辛い夏の練習も耐えた。  スパイクを決めた美鈴にお腹の底から「ナイスキー!」と叫ぶことが気持ち良かった。  たとえコートの外からであっても。
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