流れる雲を仰いで

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**  美鈴へのデディケートブロックが続き、彼女の放ったスパイクは何度もシャットアウトされて味方コートに叩き落とされていた。  そしてだんだんトスを呼ぶ美鈴の声が小さくなった。  落ちたボールを見る美鈴の額から、コートにポトリと汗が落ちていた。  気合いを入れようと、思いっきり叩いた腿がひりひりしている。  でも大丈夫、もう震えていない。  ボールを二回バウンドさせてから、コートの中の仲間に向かって叫んだ。 「上向(うえむ)いて行こう!!」  ネット際から振り向いた美鈴に、力いっぱいの笑顔を見せる。  ねぇ美鈴、上を向いて行こう。これからもずっと。人生のなかでどんなに辛いことがあっても、上を向いて空を仰いで行こう。  下を向いて逃げてばかりだった私に、あなたが教えてくれたんだから、あの美しい空を。  バレーボールは、ボールを追って上を向くスポーツ。  ピーというサーブ開始の笛の音を聞いて、もう一度息を吐いてから、高くサーブトスを上げる。  思いっきり上を向いて、落ちてきたボールを叩いた。 〈fin〉
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