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美鈴、覚えてる? あなたが教えてくれたこと。
あなたのあのひとことで、私は変われたんだよ。だから思い出して! 今、思い出して。
リリーフサーバーとして監督に呼ばれたベンチで、私はずっとそう祈っていた。
次の私たちのサーブで私はコートに入る。
サービスエースが決まってサーブが続くか、ブレイクできなければ、コートに入れる時間は一分もない。
でも、伝えたい、美鈴に伝えたい。
**
相手のライトスパイクが、アウトになる。
監督がポンと背中を叩いた。
「行ってこい」
その言葉に
「はいっ!」
と、お腹の底から声を出した。
「ナイスサーブ 一本!」
観覧席の後輩たちの声が、熱気で暑い体育館内に響く。
私は『5』と書かれた札を持って、コートの端に立った。足が震えている。
「ナル、頼んだ!」
背番号5のミキと軽く手を合わせて札をわたした。リリーフサーバーとして小走りでサーブラインに向かう。
「ナル!ナイサー頼む!」
コートの中のメンバーから、口々にそんな声が届いた。大丈夫、周りの声が聞こえるだけは落ち着いている。
でも美鈴の声はいつもより小さい。
ライトスパイカーのアキが試合中に捻挫をして、このローテーションでのスパイクはすべて美鈴に集まっている。
もちろん相手はデディケートブロック、前衛の三人がすべて美鈴の前で待ち構えて飛ぶ。
さっきからずっと美鈴はスパイクを決められていない。エースとして心が折れてきてあたりまえだ。
サーブラインについて大きく深呼吸をしてから、まだ微妙に震える腿を思いっきり叩いた。
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