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「ねえ覚えてる?」
夢うつつでまどろむ僕の耳元で声がする。
あぁ今日も可愛い声だなぁ。でもまだ僕は寝ていたいんだ。
「ねえってば」
そう言ってゆさゆさと僕の体を揺する。まだ寝たいんだってば。
んん〜と返事をしつつ目も開けずに寝返りを打つと、
「今日10時半には家出るって言ったよね?」
そう言われて飛び起きた。
目の前には仁王立ちで全ての準備を整えた君。枕元の時計は10時25分を指している。
そうだった、今日は以前から観に行こうと約束していた映画の公開日だ。だから早めに起きて早めに行こうって話をしていたのに!あれほど念入りにアラームをかけたはずなのに!なぜ!?
ドタバタと準備をする僕を尻目にはぁっと溜息をついて彼女はベッドに座る。
「何回もアラーム鳴ってたのにうるさいって止めてたから嫌な予感はしてたけどさ」
「なんで起こしてくれなかったんだよ〜!!」
ドライヤーで寝癖を直しつつ叫ぶ。
「何回も起こしたよ!!ぜんっぜん起きなかったけど!!」
彼女もドライヤーの音に負けないように叫ぶ。
「えぇ〜もうまじか…」と呟いてドライヤーを止める。寝癖は直ったがワックスなどでこれ以上整えている暇はない。歯ブラシに歯磨き粉をつけて咥えそのままトイレに飛び込む。
トイレから出てきた僕を見て、
「ヒロはいっつもそうだよね。昔から遅刻してばっかり。」と口を尖らせる。可愛い。
桜を模したバレッタでハーフアップにした髪は念入りにセットしたのか、ふわふわとカールして彼女が動くたびに揺れる。
いつもはパンツルックなのに今日は水色のロングスカートを履いており、尚更起きられなかった自分が申し訳なくなる。
服を着替えて準備が終わったのは10時40分。
「ごめん、お待たせ」とベッドに座ってスマホを見ていた彼女の前に立つと、彼女は頬を膨らませて「遅い!」と怒ってみせる。
何をしても可愛い。ごめんねと言いながら頭をポンポンと撫でると「セットしたんだから!」とまた頬を膨らませる。そんな彼女が可愛くてごめんごめんと言いながらもにやけてしまう。
「今からじゃ間に合わないし、映画は次の時間にしてゆっくり行こ」と玄関で靴を履きながら彼女は言う。
僕は身長が180cm近くあるので、155cmにも満たない彼女とはだいぶ身長差がある。彼女はそれを気にしているのか、いつも高いヒールを履いている。ヒールを履く理由を彼女の口から聞いたことはないが、僕と付き合い始めてから高いヒールを履くようになったのでやはり身長差を気にしているのだろう。あとはスタイルとか。そんなに気にしなくても十分可愛いのにな。
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