ふたり

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梅雨入りしたばかりだと言うのに、今日はまるで夏のような日差しが降り注いでいる。 「晴れてよかったね」と彼女が笑う。 歩くたびに彼女の空色のスカートが揺れる。 ふわふわ、ひらひらと蝶のように飛んでいきそうで、僕は彼女の手を握る。 「暑いから手汗かいたらごめん…」と恥ずかしそうに言う彼女に、そんなこと気にしないよと僕は笑う。 駅に着いてすぐに来た電車に乗る。彼女は電車で座ることがない。何故座らないのか聞くと、「立っている方が外がよく見えるから」と子供みたいな答えが返ってきた。「あと座るより痩せる。気がする」と真剣な顔で付け足す。 「太ってないし痩せてるから大丈夫だよ」と僕は言うが、彼女は「いや昨日体重計のったら1キロ増えてた…」とがくりと頭を落とした。そんなことを気にしなくても、と思うが彼女にとっては重大なことらしい。 車窓を流れる景色を見てここまで表情を変えるのは子供と彼女くらいだろう、と思うほど彼女はコロコロ表情を変える。 何か面白いものが見えるのかと僕も窓の外を見るが、別段変わったものがあるわけでもない。 「何がそんなに面白いの?」と聞くと、「えっとね、まずさっき通った河川敷のとこにはトランペット吹いてる人がいるんだけど、連れてる犬にいつも吠えられてるの。犬が吠えるほど下手なのかな?って思ったらおかしくて。あとはあの駅の手前のビルが工事中なの、出来上がっていくのを見るのが楽しいでしょ。あとはね、公園でシャボン玉飛ばしてる子がいてちょっとシャボン玉やりたくなっちゃった」と、指折り数えながら話す。 「よく見てるね」と言うと、「逆に何を見てるの?」と返された。僕は彼女ほど日常に楽しさを見出せない。だからこそ、彼女といるのがすごく楽しいのだ。 映画館のあるショッピングモールに着いたが、映画の時間をずらしたのでまだ時間に余裕がある。 某チェーン店のカフェを見つけ、「そういえば新作飲みたいって言ってたよね」と言うと、「飲む!!!」と目を輝かせた。 僕は甘いものがそこまで好きではないので、フラペチーノだとかそういうものに興味は無かったのだが、飲むたびに嬉しそうな彼女の顔を見ているうちに新作やカスタマイズなどを調べるようになった。今では僕の方が詳しいくらいだ。 ***
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