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その後、時子さんに傷の手当をしてもらいながら、あの少女は病気で数年前に亡くなっていることを知った。
死んだはずの人間と話していたというのに、僕はなぜか落ち着いていた。
だから常にパジャマ姿で、裸足のまま、髪も整っていなかったのか、なんて変に納得してしまう。
「自分が死んだことを受け入れられず、いつも一緒にいた母親を探して、こんな所をさまよっているんじゃろう……可哀想な子じゃ」
時子さんは目を伏せて悲しそうに言った。
それから少し怒ったようにこうも言っていた。
「栄也、お前はあのままだとあの子に、死後の世界へ連れていかれるところじゃったぞ」
「すみません……それと、ありがとうございます」
僕はそう言って頭を下げる。
「まぁ、この程度で済んで良かったよ」
それを見た時子さんはいつもの優しい笑顔で言った。
それから庭に立てたままの僕の絵を見て、眩しそうに目を細める。
「綺麗な絵だねぇ」
「まだ完成していなくて、細かい所を描ききらないと」
「いいや、あのままで貰ってもいいかい?」
「え、でも……」
「私は朝のぼんやりした風景が好きでねぇ。今の状態で貰いたいんじゃ。ダメかのう?」
僕にとっては未完成でも、時子さんにとってのあの絵は完成している。時子さんが1番望む状態で渡した方がいいだろう。
「分かりました。あれで完成です」
「ふふ、いい冥土の土産じゃ……ありがとうねぇ」
時子さんは幸せそうに笑ってくれた。
「そんなこと言わないでくださいよ。時子さんはまだ元気なんだから」
僕も時子さんの言葉に苦笑しながら、道具を片付け始めることにした。
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