ひと夏の失せ物

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「……おかーさん、おかーさん!」  田舎のバス停で始発のバスを降りると、遠くからそんな声が聞こえた。  小学校低学年くらいの女の子だろうか?  周りを見回すが見えるのは霧のせいでぼんやりとした山々と、田植えが終わったばかりの田んぼだけだった。 「おかーさん! おかーさーん!」  時刻はまだ朝の6時前だと言うのに、少女の母親はどこへ行ってしまったのだろう? 「おかーさん! おかーさーん! おかーさー……」  少女の不安そうな叫びを目線で追って探しているうちに、その声は木々の間をこだましながら消えてしまった。  必死に母親を探す少女には申し訳ないが、僕は為す術もなく、大きなリュックを背負い直して目的地へと足を踏み出すことにした。
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