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同じデザインの服を二着購入して、家路へと向かう。休日の時間はあっという間に過ぎて、空気が黒く変わってゆく。空に向かって高く伸びた時計台が、闇に飲まれている。
夜が訪れたのだ。
私の視界に映るノエルの瞳と唇だけが、色鮮やかに輝いて見えた。
いつかノエルの命を奪うために、私はここに在る。
今はほんの一部だけ色を持つノエルの体全体に色彩が広がって、私の視界を極彩色に埋め尽くしたなら。
それが合図だった。
「アン、キスに興味はある?」
「キス?」
「手を繋ぐのと同じよ。唇を繋ぐの」
「……同じ……?」
「こんなふうに」
二人の部屋で、ノエルのやわらかな唇がアンに触れた。軽く触れるだけのキスはとても初々しく、すぐに離れた。それを間近で感じている私は、ちくちくと神経が毛羽立つような不思議な気持ちに苛まれる。
唇が離れてもアンはびっくりした表情でしばらく固まっていたが、少ししてからばつが悪そうに目を逸らした。
「……なにそれ?」
「何が?」
「気になる人がいるって嘘だった?」
「嘘? どうして嘘?」
「私に、……キスとか」
「寂しがりのアンにほだされたの」
淡々と囁くノエルは蠱惑的だ。触れた唇から色がじわじわと広がっていき、しまいにはアンまでも浸食し始める。
「誰かがね、あたしを見ているの」
「……誰か?」
「昔読んだ本の内容を覚えてる? 白と黒の死神の話よ」
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