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 色を持たない死神が、色を認識した標的を連れてゆく物語だ。あれは何かのメタファーなのだと、ノエルが言っていた。 「その死神がね。あたしを殺そうと、今もアンにキスするのを眺めていたのよ」  暗闇の中でも見失わぬ輝きが、私を絶望へと導く。私に死の鎌を振るわせようと、意図的に。  ノエルを殺させないで欲しかった。  私の色のない世界を壊さないで欲しかった。 「アン、さっき買った服の色を知っている?」 「……服……?」 「アンには色が見えていないのね」  くすりと笑ったノエルは私に手を伸ばし、首に触れた。 「少女を殺すのは、大人になるため」  ノエルは再び私に顔を近づけ、色づいた唇を這わせた。先程とは違い、吐息が絡み合うような温かく濡れたキスは、頭を麻痺させた。 「アンの中の死神を、食らってあげる。ずっと一緒よ」  (アン)は目を瞑った。何も見たくなかったからだ。  モノクロの世界で極彩色の天使が笑う。色のついた世界は醜く、欲望にまみれている。それはひどく官能的でもあり、私を苦しめた。清廉でありたいと上辺で願う私の本心を暴かれる。  この壊れた世界のどこにも、死神などいない。  今までと異なる世界を知りたくなかっただけの、つまらない少女の理があるだけなのだ。 
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