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モノクロの世界に、私は存在している。
私には「色」がわからない。そのもののぼんやりとした輪郭と、明暗ならわかる。
普段から色がどういうものなのか意識していないから、それを寂しいとも感じてはいない。色鮮やかな世界を夢見たこともない。
モノクロの世界は、私に優しい。
それには理由がある。
私は、死神だ。死神は標的以外の色を認識しない。する必要がないからだ。モノクロの世界が優しいのは、本当は誰の命も奪いたくないからに他ならない。私は異端である。
「ノエル、手を繋ご」
アンが軽やかな声でノエルを促した。
二人は義理の姉妹だ。姉妹と言っても年は変わらない。お互いの親の婚姻によって、幼い頃からいつも二人は一緒だった。
ノエルは華やかで美しく、誰からも愛されてしかるべき存在だ。対してアンは凡庸で、ノエルという輝きが眩しいほどに一層目立たなくなる。けれど二人は仲が良く、その間に誰も入る余地はない。
私はそれを、傍らで見守る。
「信号が変わった。行こうノエル」
「──信号の青は、空の色」
ノエルは空を見上げて、呟いた。
「ノエル。信号の青は、空の青とは違うよ」
「知ってるよ」
ノエルはもしかしたら死神の存在に気づいていて、空の色を教えてくれているつもりなのかも知れない。
空が青いこと。
夜になれば黒くなること。
知識としては知っている。闇は視界を悪くするので、夜になれば勿論わかる。
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