プロローグ 回転

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 ー野太いプロペラの音と灰色の空、緑の大地。  ジリジリとしか上がらない高度計の針が、心拍数を跳ね上げた。    ついさっきまで、この飛行機のスティック(操縦桿)を握っていた。パイロットのライセンスは無い。それどころか、生まれて初めての空。  後部座席の試験官は何も言ってくれない。 「ー今どんな気持ちかな?」  試験官が口を開く。 「ー怖いです。」 「何がだい?」 「初めて空を飛んでー初めて操縦桿を握ってー・・・その・・・・・・私は…失格でしょうか・・・?」  不安に押し潰されながら捻り出した言葉に試験官は言う。 「さぁね。ー合否はともかく、一生の思い出に残る体験にはなっただろう。せっかくだ。ちょっとアクロをしてあげよう。今からループ(宙返り)とスピン(錐揉み)、バレルロールをやろう。心の準備は?」 「ーお願いします。」 「行くよ。」 「ーッ!!」  試験官の言葉と共に、圧が上から襲ってきた。身体が押し付けられ、滴る汗と全身の体液が足元に向けて一斉に走り出す。  灰色の空の太陽が頭上から足元へ向けて降ってきた。そのまま計器盤に隠れてしまう。やがて緑の大地が頭上から現れ、木々や家屋、送電線が真正面へ現れた。  圧ーGが止み、水平になったことを知る。 「どうだ?」 「ー・・・言葉に出来ないです。太陽が頭上から降ってきたら消えて、大地が・・・」 「まだ大丈夫そうだね。では次、スピンね。行くよ。」  身体を押すGとともにプロペラ音が消えた。 「!!」  運動エネルギーを失った機体はくるりと回転しながら落ちていく。身体を持ち上げてくるマイナスG。眼下の世界が真正面に来たと共に物凄い速さで世界が廻り始めた。  ーこの空に神様が居るなら、落ちていく私をどんな表情で眺めるのだろう。  天地が激しく入れ替わり、旋転する世界の中で、私はそんな事を考えていた。
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